2010年12月3日金曜日

新しい株式投資論 「合理的へそ曲がり」のすすめ

山崎元(やまざきはじめ)著
2007年10月29日第一版

著者はずっと以前に村上龍のJMMで知って以来、私が好きな数少ない投資アナリスト(と称して良いか分からないが...)の一人。彼のことを知って間もない頃に読んだ本で(書名は失念)、未だに印象深く残っているのがある。

息子(娘)がバイクに乗りたいと言ったとき親として取るべき行動は?

というもので、これを投資にみたてて、リターンを最大にする有効な回答

ヘルメットを買い与えること

あれ?ちょっとニュアンスは違うかもしれないが、概ねこんな感じだったと思う...。ちなみに、私がバイク好きということを差し引いたとしても、この主張を支持します。

新しい株式投資論―「合理的へそ曲がり」のすすめ (PHP新書)
山崎 元
PHP研究所
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本書はあらゆるものを投資として考えた時に如何に行動すべきか、を様々な事例で検証したもの。このバイクの例だけでは面白さが伝わらないが(それは全て私の解説下手にあるのだが)、この本を読んだだけで、著者の投資や経済に対する思想だけではなく、もっと普遍的な面に大いに共感したのを覚えている。

本書の今回のテーマは「株式投資論」に絞ったもので、やはり彼の考えや意見には大いに同感する面が多い。「新しい」かどうかは分からないが、大多数が支持する理論ではないような気がする。何故だろうか?

株式投資をゲームと断定した上で

株は情報の勝負ではない
頭脳の勝負ではない
金持ちが勝つゲームではない
努力しても上達しない
必要なのはセンスだけ(あと「運」も)

と主張されたら引く人が多いからかもしれない。少なくとも私には、著者が感覚的にこれらを主張しいるとは思えない。著者なりの経験と分析に基づいたものであると思う。要は、これらを受け入れるか否かだと思う。

恐らく本書を読んで失望する人は、これを読んでも直ぐに利益が得られるノウハウが無い ことを挙げるかもしれない。そもそも株式投資でそんな方法論など本になること無く、すなわち誰もが儲かる方法は存在しない(あったとしても既にその方法は使われて有効では無くなっている)というのも彼の主張です。

本書では色々と同感する点は多いのだが、一つ変わった点で興味深いかったのは「行動ファイナンス」の一種かもしれない「ニューロ・ファイナンス」の話。

複数のカードの山からどれが得か損かのカードの山を判断する実験で、平均的な被験者は80枚ぐらいのカードから「この山はヤバイ」と意識し始めるが、皮膚に電極を付けて調べた反応からは20、30枚で既に「ヤバさ」を感じている

というもの。この事例から色々想像できる。
  1. 投資判断の誤りは脳が納得した時点で採用した「遅くて悪い」判断に原因がある
  2. 各種のチャート分析は大して役に立たないと思うが、が「この」感覚に従う判断材料として今以上に有効に使えるかもしれない
  3. この感覚を鍛える「怪しげな」トレーニンググッズが販売される

3は著者も書いておられるが、1,2は私の勝手な想像。「1」なんて「結局は勝ち負けは能力差じゃんかよ~」とするのか、「誰でも平等にもっている磨けるセンス」なのか分かれるところかも知れない。本書で述べられているセンスとは違うかもしれないが、私は後者の「センスを磨く」という方を断然支持したい。

「ニューロ・ファイナンス」まだまだ発展段階のテーマで、当時からどれほどの進歩があったのか分からないが、「行動ファイナンス」と併せて「古典的ファイナス理論」のある面を打ち砕く理論で有り得ると思う。

このニューロ・ファイナスの項を読みながら、先日読んだ橘玲の「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」の脊髄反射のことを、(多分私の脊髄が反応して)瞬時に思い出した。そして「金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか」には薦める著者にこの山崎元と橘玲が挙げられている。

結局は自分の思想や哲学をもって事に当たらないと(株式投資もしかり)ダメなんじゃないかと思う。「必勝チャート分析法」なんてのに活路を探す姿勢では、その時は既に誰もがその方法を採用して、自分が買ったときには「既に高値」... これがこの株式投資というゲームの一面のようです。そんな時はケインズの「不美人投票」を思い出して行動するのが「合理的へそ曲がり」なのです。

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