2016年9月30日金曜日

きいろいゾウ(2006年小説)

著者:西加奈子 
発行:2008年3月11日文庫本初版(単行本:2006年2月28日)

きいろいゾウ (小学館文庫)
西 加奈子
小学館
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私は速読を嫌っている。そもそも「速読」の意味が曖昧だ。会議資料やプレゼン資料の要点をざっと掴むために読む行為を「速読」と呼ぶのなら、私は「速読」をすることができる。しかし、知識や楽しみを得ようとしている本を「速読」することの意味がわからない。

そもそも、速読で事足りような本を私は読まない、フィクションであれノンフィクションであれ、本の内容にどっぷりと浸りたいから。速読を自慢するような人や速読に憧れるような人に何人か出会ったが、私とは色んな意味で「嗜好の違い」を感じた。「それ、おかしいだろ?」と思ったものだが、何も言わなかった。人それぞれなのだ。

速読する人の本書の感想を聞いてみたいところだが、そもそもそんな人は本書を好んで読まないような気がする。説明するのは難しいが

スローリーディングを促す文体、物語

西加奈子の本の全般に言えることかもしれないが、本書を読みながらそんなことを感じだ。「ツマとムコさん」を中心にした田舎生活の物語なのだが、まさに田舎暮らしの如く、ゆっくりと話が進んで行く感じだ。そのペースに飲まれてか、いつも以上にゆっくりと読んでいる自分に気づく。チャッチャと読もうとしても、そうはさせない文体、というか物語なのだ。

これを速読してる様子が全く想像できない。そんな人は何を楽しんでいるのか理解に苦しむ。誤解を招く表現だが

早送りで小津安二郎の映画を見ている

ほどに、何も味わっていないのでは?という感じだ。

そんな感じで、小津の映画を見たことない人に小津作品の魅力を伝える並に、本書の魅力を伝えるのは難しい。とはいえ、こんな風に書いてしまうと、あらゆる作品の魅力を伝えるのを放棄しているようで嫌になるのも事実。

誰かに、その魅力を伝えたいために、こうやって「言葉を紡ぐ」しかないのだ。


ようやくの「きいろいゾウ」

2014年1月末に「炎上する君」を読んで以来の 7 冊目の西加奈子。最近のを読もようと思ったが、本書はずっと気になっていた。映画化されているのでタイトルだけは前から知っていた。読むつもりで何度も手元に置いてはいたのだが、フィクションものを徐々に読みたくなくっていた時期で、ずっと後回しになっていた感じだ。

その後、先日「フィッシュストーリー」のおかげで、フィクションものの楽しみ方を再発見してから、読みたい本のリストに上がったのが西加奈子であり、本書だった。

映画で「ツマ」役を宮崎あおいが演じているのは知っていた。「そのイメージで読むのかな?」と思っていたが、そうはならなかった。むしろ、私の知っている宮崎あおいとは、小説のイメージが異なったのが幸いしたのかもしれない。とはいえ、彼女は数少ない好きな日本の女優の一人なので、映画での演じ方は楽しみだ。

そういえば、私が西加奈子を読むきっかけになったのは宮崎あおいの紹介。テレビのゲスト出演時に、西加奈子と「漁港の肉子ちゃん」の紹介が良かったから。


私にとってのファンタジー

これが洋画だったら、「夫婦のカタチ」なんていう「アホ丸出し」のタイトルや副題がつきそうだ。「夫婦のカタチ」なんてそれぞれだ、私にも理想はあるけど、言葉にすれば野暮になる。

小説を読むって、じつに不思議な行為だな... いつもそう思う。

これは、本文庫版の岡崎武志の解説の冒頭。

音楽、映画、漫画、それぞれ発するメッセージは同じだとしても、形態は随分ことなる。ある意味、小説などの「文字だけ」の形態は、最も受けての想像力に委ねられるもの。

空気なんて読まなくて良いけど
行間は読めるようになりたいものですね

これは皮肉を込めた私の主張である。

好きなだけ何度も遡って読み返せる本という媒体の「行間」を読めない人が「読む空気」て、どれほど貧弱な空気なんだろう、と皮肉ながら思うのでした(笑)

「想像力の欠如」と、テレビのメディアが批判するのをあまり聞いたことがない。テレビをほぼ見ないので何とも言えないが、「想像力の欠如したメディアがテレビ」なので、自己批判をするはずがないと、自分なりには納得している(笑)

「批判精神の欠如」と先日投稿したばかりなので、その根本にある「想像力の欠如」を、こんな風につい考えてしまった。

私にとってのファンタジーは、ディズニーに象徴されるよな「夢物語」ではない。「きいろいゾウ」なんているわけはないけど、そこから想像される「現実に直結」したファンタジーこそが、私にとってのファンタジーだと、本書を読みながら改めて思った。

人は、日々のリアルな生活から逃げることはできない。束の間、ディズニー風のファンタジーで逃避するのもありなのだろうが、それでも直ぐに現実は舞い戻ってくる。「魔法の杖」を望んでも、そんなものはありはしないという現実。

現実に立ち向かえる「元気と勇気」を与えてくれる「ファンタジー」は、この世の中、小説という形態で無数に存在している。そんなことを、本書から改めて教えてもらった。

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