2009年9月5日土曜日

マグマ(2006年小説)

真山仁 著
初版 2006年2月28日

地熱発電
(ちねつはつでん、じねつはつでん、Geothermal power)とは、地熱(主に火山活動による)を用いて行う発電のことである。再生可能エネルギーの一種であり、枯渇性エネルギーの価格高騰や地球温暖化の対策手法としても利用拡大が図られつつある。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

本書の主人公(野上妙子)と同様に、この本を読むまで地熱発電のことは全く知らなかった。ただ、原子力発電への依存度が高まっている日本の発電方針には、少なからず疑問、もっと言えば恐怖や不安を抱いていた。

いつの頃から原子力発電が
”当たり前”の存在になってしまったのか?

マグマ (角川文庫)
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真山 仁
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本書を読んでその疑問の原因が少しだけ分かったような気がした。

小説自体はフィクションであるが、先のWikipediaを含めて地熱発電について少し調べたところ、小説の内容は現実と大きく飛躍するものではない。著書の作品はこれまで「ハゲタカ」「バイアウト」「ベイジン」と読んできたが、これら同様にリアルで上質なフィクションなのである。

地熱発電のことを知るほど、クリーンエネルギーや代替エネルギーが叫ばれている昨今、地熱発電こそが最も日本にふさわしい発電方法であるような気がしてくる。それなのに、何故今まで地熱発電のことを聞いたこともなかったのだろうか?自分の無知さもあるのだが、これだけ代替エネルギーが叫ばれている中、少しぐらい話題に上ってよさそうなものだが...。

地熱発電の問題点を、小説で取り上げられている原因のいくつかを挙げてみる。
  • 有力な地熱領域が国立公園内にある(法律で保護されている)
  • 温泉街の反対(地熱発電が温泉源に悪影響があると懸念)
前者が問題ならば日本政府はどうかしている。世界環境の保護より、国立公園の保護を優先するということらしい。後者は、完全に「狭い」既得権益の世界。小説でも触れられていたが、多分悪影響はない。温泉街の根拠無き恐怖心から来ているもので、科学的データと政府の保証(保険の方が良いでしょう)で解決すると考えられる。

最大の原因はこれかもしれない。本書から抜粋。

電力会社が原発という神の火を手に入れ
後戻りできなくなった

今の電力会社の存在こそが地熱発電を握りつぶしているのかもしれない。原子力をやめますか、それともエアコンの無い環境に戻りますか という二元論を突きつけてくる(であろう)電力会社。その二元論は間違っていると個人的には思う。物事はそんなに単純ではないことは歴史が証明しているし、これからもそれは真実である。

本書も「ベイジン」に劣らず熱い人間たちのドラマである。「ベイジン」のラストには不満があったが、本書は良かった。「報われた」という想いで胸が熱くなった。著者の多くの作品のテーマにもなっている「何のために働くのか」「企業の社会的責任」にも果敢に取り組まれている。タイトルの「マグマ」のように熱い著者のメッセージが伝わる作品である。

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