2010年3月27日土曜日

レッドゾーン

真山仁 著
2009年4月23日 第一刷

レッドゾーン(上) (講談社文庫)
真山 仁
講談社 (2011-06-15)
売り上げランキング: 25,643
上巻を読んでから約ひと月後に下巻を読んだ。久しぶりに半日読書に費やして一気に読み終えた。そのぐらい相変わらず読み応えのある内容であった。

ハゲタカ、ハゲタカII(バイアウト)から続く主人公鷲津正彦を中心とした会社買収小説(ちょっと乱暴な定義の仕方ですが...)の三部作目。恐らくこれが完結編でしょう。

完結編かどうかは良く分からないが、正直これで終わって欲しいという願いはある。それは鷲津物語には飽きた、ということではない。かれの思想や哲学には共感するところが多い。その共感するところをひと言で表すならば サムライ ということだろうか。サムライの定義は難しいが、私の抱くサムライ思想に近い。この話題に入ると収拾がつかないでここで打ち切り...。

そんな鷲津だが、ちょっと違和感を覚えるのはカッコ良すぎるという点(笑)。一個人のサムライが国を代表する企業、果ては他国の企業、更には国まで動かすまでの手腕を発揮するのは痛快だが、リアルさが薄れるのも確か。

レッドゾーン(下) (講談社文庫)
真山 仁
講談社 (2011-06-15)
売り上げランキング: 26,126
こんな風に思うのは、私が期待する真山作品はリアル感と登場人物たちの熱い人間模様、彼らが織り成すドラマ。本書も勿論その真山テイストは健在で楽しませて頂いた。特にアカマ自動車(マツダとトヨタを足したような企業)の創業者一族企業ならでわの役員の苦悩などリアルであった。更には、作者が大阪出身のためか、東大阪の町工場の描写は素晴らしかった。

一気に読破したのだが、実は下巻の終盤で混乱した。原因はめまぐるしく変わる展開と登場人物の相関が取れなくなったこと。もう少しじっくり読めばその相関は難しくはないのだが、疾走感のある展開にまかせてスラスラ読んでしまうのでどうしても混乱してしまう(更に、中国人名は覚え難い...)。それを面白くも読めるのだが、ここでもリアルさが損なわれた印象がある。現実でこれだけの登場人物が絡まって陰謀や策略が粛々と進んで、それを明確に解明できるのかなぁ?という疑問を抱いた。

もう一つ、失笑したというか、興醒めしたのは、買収の結末が日本、米国、中国が共存して共に発展するするという決着に至ったこと。「あはは...」と思ってしまったのは、余りにも理想的に過ぎるから。悪くはないのかもしれないが、やっぱりリアルさに欠ける結論かと思う。しかし、これが現実になれば本当に嬉しいことではあるのだが...

著者の中国を舞台にした作品「ベイジン」でもあったと思うが、中国(中国人も勿論含む)を日本(日本人も勿論含む)は「下」に判断する傾向があると思う。「あぁ、それは何十年前の日本やん」などはその際たるもの。真の意味で的を得た苦言もあるが、それを発する人々に中国を「下」に見ている姿勢はないだろうか。そんな背景も本書のストーリーの根底にはあると思う。

この傾向は世代によって異なると思うが、私自身にはあまりない。何度か中国の方と仕事をしたとき、私の想像のアメリカ人よりアメリカ人的なのが中国人だったという印象は今でも覚えている。

おそらくこれで真山作品を全て読んだことになる。その中でも、本書はちょっと多めに非難を書いてしまったかもしれない。それは決してつまらないということではない。一気に読破したことからも、面白いということには間違いない。真山作品に期待するところが大きいから。

ちなみに、映画化された本作品は観ていない。多分、本書とは違うテイストや脚本となっているでしょうから、観る機会があれば頭を切り替えて観たいと思う。

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