2010年12月28日火曜日

永遠の旅行者

橘玲(たちばなあきら)著
2005年7月 第一刷

「永遠の旅行者」て何? Perpetual Traveler の訳であるが、その訳からも判然としない。Permanent Traveler とも言われるが、それでも理解は進まない。

永遠の旅行者(上) (幻冬舎文庫)
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Wikipedia先生によれば
パーペチュアル・トラベラー(Perpetual Traveler)とは
「永遠の旅行者」を意味し、各国で、非居住者とみなされる滞在期間の間だけ滞在し、税金を国家へ合法的に払わない、もしくは納税する税金を最小にするライフスタイルのことである。Perpetual Travelerは、略してPTと呼ばれる。

要するに税金(消費税などの間接税は別)を払わない人たちで、そのスキーム(方法)は各国を「旅行」すること。原理的に最低でも年間3国を渡り歩けば良いようです。

何だ、脱税の指南書か?

全く違います。そんなものよりもっともっとエキサイティングです。ある意味、著者の「マネーロンダリング」に勝るとも劣らないほどに面白い小説でした。二日余りで一気に読ませていただいた内容は、どんな風に映像化されてもこの楽しさを超えることは出来ないでしょう(だから読書は止められない。映画も止められないけど...)。

税金(所得税、法人税、相続税、などなど)なんて「納めないで良いですよ」と言われれば多くの人が喜ぶに違いない。お国のことを真に憂える人であればこの限りではないでしょうが、それでも渋々という方が多いはずです。私としても、率先して納税したい国になって欲しいと真に願ってはいますが...。

こんな無味乾燥で嫌われ者の税金をテーマにしたフィクションは、脱税をテーマにした抱腹絶倒の現実的でない物語が大半のような気がします。それ以外は、「脱税万歳」「税効果会計のススメ」(いずれも仮称)などなどの指南本の類だと思う。

本書はそれとは全く一線を画している。壮大なヒューマンドラマとは言い過ぎだろうか。練りに練られたサスペンス、推理小説ともいえる。単なる税金の知識だけではここまでの小説は書けない。改めて著者の知識の広さと奥深さに感銘を受ける。

先のWikipedia先生によれば
PTの中には、リバタリアンである者も多く、個々の自由やプライバシー、財産を何人からも侵害されることを嫌うことが多い。

出ました「リバタリアン」、これは先日読んだ「不道徳教育」の背後にある思想です。これも著者による翻訳なので彼の思考や哲学の連なりを垣間見るようです。

永遠の旅行者〈下〉 (幻冬舎文庫)
橘 玲
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法律違反はダメです(「不道徳」かどうかは別の議論)が、法律に抵触しない「脱税」は法律上では「脱税」にはならない。当たり前の言葉遊びです。本書では、PTである主人公が余りにも正義感があり過ぎるきらいは否定できないが、それは主人公の生い立ちや思想を考えると不自然ではない。味気ない法律という縦割りの糸を、確固たる信念を持って軽快に横糸でさばく主人公の行動にこそ人間らしさを感じてしまう。

余談だが本書には私の好きなミュージシャンや楽曲がいくつも登場する。Bob Marley も勿論だが、CCRの Have You Seen the Rain (邦題:雨を見たかい)の Rain がベトナム戦争で投下される「ナパーム弾」を指しているとは知らなかった。そして当時アメリカでこの曲は放送禁止になったそうです。供に国家というものに疑問を呈した出来事や人たちである。

「お国が国民を守るもの」という発言と、「国家の前にあるべきは人です」という言葉とはイコールではないと思った。「先ず己ありき」です。ニーチェをちゃんと読み返したくなりました。

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