翻訳:松浦俊輔
発行:2006年2月8日(第1版5刷:初版2004年8月30日)
私たちにとって、無知などありませんし、私の考えでは、自然科学にとってもそんなものはありません。ばかげた無知ではなく、逆の「われわれは知らねばならない、われわれは知ることになる」と決意しようではありませんか。P.300
この引用は、1930年9月8日、ケーニヒスベルクで、ダーフィト・ヒルベルトの講演の末尾のもの。この「われわれ...」の言葉で、本書はエピローグ前の最終章を終えている(P.416)。
この言葉に、私は強く共感する。
大げさに聞こえるかもしれないが、「無知を受け入れた先にあるのは死」だと長年思っている。これは、決して重い言葉ではないし、「生きるとは」への答えにもなっている。
リーマン予想とは
次の引用は、多くの人が「リーマン予想」に抱く疑問かもしれない。
RH(リーマン予想)が正しいこと、あるいは間違いであることが証明されたとしよう。現実にどんなことが出てくるだろう。われわれの健康や便利さや安全が向上するだろうか。新しい装置が発明されるだろうか。もっと速く移動できるようになるだろうか。火星に移住できるようになるだろうか。P413
次は、ジャック・アダマールが『数学における発明の心理』で述べたもの。
重要な数学研究が、与えられた実用の用途を直接に考えて行われることはまずない。どんな学問研究にも共通の動機である欲求、何かを知り、理解したいという欲求が元になっているのである。
「だから数学は訳がわからんのだよ」との反発も聞こえそうだが、事実だから仕方がない。
でも、この手の反発はよく考えると笑える。実用的な技術、例えば「リニアモーターカー」を便利だと思う人は、どれほどの人がその技術的背景を理解しているだろう。その背景にある数学や物理学に、果たして彼らは興味を抱くだろうか?
私は本書を読んで
「リーマン予想」という存在、それ自体が素晴らしい
常にあった興味
本書を読み始めたのは、ちょうどひと月前、ツーリング途中のファミリーレストランでのことだった。
日々データ分析や統計学、数学に取り組んでいるが、実は数学の歴史的なことは無知に等しい。興味がないわけでなく、単にこれまでキッカケがなかったのだ。とはいえ、やはり「興味がなかった」のが正確なのかもしれない。あったら読んでるもんね(笑)
とはいえ「興味はあったのだ」。2009年11月に「NHKスペシャル 魔性の問題:リーマン予想・天才たちの闘い」を興奮して見たのだ。その頃、今のような数学への興味があれば、真っ先にこの本を読んだと思う。
とはいえ、一説ではあの番組では誤った(誤解を招く?)表現があると指摘されている。もう一度見て確かめたいものだ。
とはいえ、リーマン予想を自分の言葉で簡単に説明できるほどの理解には至っていない。「自然数」で投稿したように、そんな数学レベルの私なのだ。なので、本書の隅々まで理解して読んだとは到底言えない。
それでも楽しんで読んだ。フェルマー本同様に、数学の歴史を辿る意味でも楽しかったし、リーマン予想の証明の試みから誕生した数々のアイデアは興味深かった。著者の上手い書き方(はしょり方)のおかげで、理論のつながりの流れを十分に堪能できた。
今の私にはそれで十分なのだ。これからも数学を学び、再びこの本を読むことだろう(次は原書かもしれない)。その時が楽しみだ。その前に、フェルマー本をもう一度読みたくなっている。
リーマン予想「信仰」?
最初に書いた「リーマン予想が証明、もしくは判例が証明されたら...」については、このまま曖昧にしようとも思ったが、どうしても書かずにはおれないことがある。
「リーマン予想の証明が解けたら」的な話題で頻繁に目につくのが「ネットでの暗号が解読される」類のもの。はっきり言って、私はその意見には反対の立場である。明確な理由は書けないが、言えるのは「リーマン予想と暗号解読(素数の解読)とは結びつかない」から。
さらに思うことがある。リーマン予想の「副産物」、例えばリーマン予想を前提とした新しい理論が、素数の仕組みをもっと明確にするかもしれないし、それは現在の暗号を容易に解読するものかもしれない。しかし、それと呼応するかのように、もっと破れない暗号技術が生まれると信じている。
楽観論かもしれないが、技術の発展とはそういうものだ。
リーマン予想やその他の数学理論を、実用的なことも結びつけるのも結構だが、どうしても「本質的なことからずれている」と感じる。「黄金比信仰」のような違和感を感じるのだ。先のジャック・アダマールの引用からも、そう思わずにはおれない。
まぁ「誤ったことを信じる自由」もあるだろうしね。でも、「そこから先に行く」には、誤った理解ではどこにも辿り着けないのは真実だ。
われわれは知らねばならない
われわれは知ることになる



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