原書:Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game
翻訳:中山宥(なかやまゆう)
出版:2005年2月1日(第9刷、初版2004年3月17日、原書2003年6月17日)
ベストセラーの映画化を好まなかったが、近年では原書をうまく脚色して良い作品が多くなったと思う。本書をベースにした映画 "Meneyball"もその一つ、既に2回以上は見た。本書を読み終えた後、再び見て更に楽しんだ。
本書の翻訳はすごく良いのだが、副題がダメすぎる。「奇跡のなんとか」て「プレミアム」並みに氾濫してる気がする。「奇跡」て、アスレチックスに失礼じゃないか? 原書の副題 "The Art of Winning An Unfair Game" が圧倒的に的を得ている。映画 "Moneyball" でも Brad Pitt がこの副題をそのままセリフとして使ってもいる。翻訳本の副題しか知らなければ、そんな Brad Pitt のセリフを聞いた時に、私のように楽しむことはできないだろう。
マイケル・ルイス
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野球物語にあらず
本書を読む前に映画を見た。映画では「セイバーメトリクス」の詳細に突っ込みすぎず、ヒューマンドラマを重視して脚色されたと予想した。そして、本書を読んでそのことが正しかったと確信した。
とはいえ、本書もある意味で「一級のヒューマンドラマ」だ。「スポーツとしての試合に科学的データを持ち込む」という「セイバーメトリクス」を、「血も涙もない」などと評するのは 大いに短絡的 だ。セイバーメトリクスを推し進めるビリー・ビーンの姿は、人間そのもの。そして、ビリーに見出されて活躍する選手たちの姿には涙してしまう。
野球というスポーツを好まない私だし、野球ファンを敵に回したくはないので、セイバーメトリクスをどう考えるかの野球ファン心理については触れない。スポーツの楽しみは人それぞれだから...。
とはいえ、多くのファン心理に共通なのは、たとえセイバーメトリクスを使った野球でも、チームが勝てば興奮することだろう。「勝ち」こそが重要なのだ。「血と涙で勝利」というほど、プロフェッショナルは甘くないのだ。
スカウト業界にはポールの興味をそそる特徴がいつくかある。第一に、野球経験があるスカウトはつい、必要以上に自己経験と照らし合わせて考えようとする。自分の経験こそ典型的な体験だと思いがちだが、実際はそうでもない。第二に、スカウトは、選手の一番最近の成績ばかりを重視する傾向がある。最後にやったことが次にやることだとはかぎらない。第三に、目で見た内容、見たと信じ込んでいる内容には、じつは偏見が含まれている。目だけに頼っていると錯覚に陥りやすい。誰かが錯覚に惑わされている時、現実を見据えられる別の人間にとっては金儲けのチャンスだ。野球の試合には、目に見えない要素がたくさんある。P. 33
本書が単なる「野球物語」なら私は読んでいない。「ビジネス物語」として読んだし、もっとシンプルに「戦い or ゲームに勝つためには」という視点で読んだ。この引用からも、一般的で「とうに時代遅れ」なビジネス慣習が容易に思い浮かぶ。
ワイン方程式と打者評価式
そんな理由なので、その本の Introduction の “The Orley Ashenfelter of Baseball” で、”Moneyball” の話題を読んだ偶然に驚いた。そして楽しんだ。特に、セイバーメトリクスの「生みの親」ともいうべき Bill James の話は興味深かった。
次の Bill James の言葉は、至極当たり前のことに思うが、日本の野球ではどうなんだろう?
The naked eye was inadequate for learning what you need to know to evaluate players. Think about it. One absolutely cannot tell, by watching, the difference between a .300 hitter and a .275 hitter. The difference is one hit every two weeks…. If you see both 15 games a year, there is a 40 percent chance that the .275 hitter will have more hits than the .300 hitter…. The difference between a good hitter and average hitter is simply not visible—it is a matter of record.
選手の評価に必要なことを学ぶには、目で見るだけでは不十分だった。3割 と 2割7分5厘 のバッターの違いを、見たただけどうやって分かりますか?違いは、2 週間で 1 安打の違いでしかない。両者を年間 15 試合見たとしたら、2割7分5厘 のバッターが 3割 バッターより打つ確率は 40% ある。良い打者と平均的な打者との違いは、単に見ただけではわからない、過去の記録が重要なのです。
ちなみに "Super Crunchers" は、Ashenfelter の「ワイン方程式」の話題で始まる。その方程式とは
Wine quality = 12.145 + 0.00117 winter rainfall + 0.0614 average growing season temperature – 0.00386 harvest rainfall
統計学を少しでも知っている方は、これが「回帰式」と気づくだろう。Ashenfelter 同様に、Bill James が作った方程式は
Runs Created = (Hits + Walks) × Total Bases/(At Bats + Walks)
これは、「打者の良し悪しは出塁により測られるべき」とするもので「バッターの出塁貢献の測り方」である。
四球を「ピッチャーのミス」とはしないところが特徴だ。「いかにアウトにならないか」が勝利の確率を上げることは直感的にも納得する。その考えを推し進めれば、「3割の失敗率がある走塁は禁止」とした、ビリー・ビーンの意図も理解出来る。
データ分析の目的
これらの回帰式の意味は、少し説明を加えるだけで、中学生でも理解出来る。そんな中学生でも理解できる式で表せることに、激怒して反論する輩が誰なのかは容易に想像できる。「勘と経験」を信条とする方々ですね。
とはいえ、私はそんな輩を排除することにはそれほど興味はない。重視するのは、「勘と経験による誤った判断」を可能な限り回避すること。得られたであろう「勝利」をみすみす逃すことは、是が非でも回避すべきなのだ。そして、本書と映画のポイントである「間違った人たちの偏見と、大量のデータに埋もれた才能を見出す」こと。
データを「単なる数字の羅列」とするか、それとも「何かを語りかける言葉」と読むか。そのどちらが「勝利の確率」を上げるエッセンスかは自明だ。
Ian Ayres
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