原書:The Big Short
翻訳:東江一紀
出版:文庫版 2013年3月10日第1刷(原書2010年3月15日)
「リーマン・ショック」、もしくは "Lehman Shock" という用語はないと思う、"Lehman Crisis" は使われるかもしれないが、日本人のメディアで使われた(今も使われている?)ような以下の意味は持たないと思う。
リーマン・ショックは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻(Bankruptcy of Lehman Brothers)したことに端を発して、続発的に世界的金融危機が発生した事象を総括的によぶ。
そもそも、「リーマン・ブラザーズが破綻したことに端を発して」からして疑問だ。少なくとも、そういう解釈をして、この世界金融危機(Great Recession, Financial crisis of 2007-08)を読み解くことはできない。
とはいえ、私も本書を読むまでは、この金融危機を
市場関係者の強欲と、一般市民の欲望の果ての結果
- 規制当局は何してた?
- FRB(Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会)は何してた?
- 格付け会社の格付けは不当だったのか?
- 大損をした超大手銀行のリスク管理はなぜ機能しなかったのか?
などの疑問は、微塵もクリアにならなかった。「農協が大損した」国内への影響ばかりを煽るように報じていた記憶の方が大きい。本書にある、金融危機勃発間近での「みずほ銀行」の愚かさは情けないが、そういった報道は日本では聞いた覚えがない。
TVで「専門家です、プロです」という感じのアナリスト?経済学者?が解説をするが、一向に判らない。結果だけを「後付けて論じている」としか聞こえず、私の疑問の解消には至らなかった。
「当時は、誰も判らなかった」というのが正しいのかもしれない。本書の中心である「世界経済の破綻に賭けた者」たちや、数人の当事者を除いては。
2005年初めごろには、アイズマン率いる小集団は、ウォール街で働く非常に多くの人間が、自分の仕事の内容をまったく理解していない、という共通認識を持つに至った。サブプライム・モーゲージという怪物が、ふたたび立ち上がり、動き始めていた。P.59
奴らは何をしてる?
本書を読んで、この「世界金融危機」が分かったとは言うつもりはない。とはいえ、「本書を読んでも判らない」とも言ってはいない。単に私の理解力不足と、そいう風に本書を読まなかった、という理由だ。
本書は「一級のノンフィクション」であるのは間違いない、ジャーナリズムの力強さも感じる。且つ「一級のフィクションドラマ」を見るような娯楽性も併せ持つ、文句の付けようのないもの(日本語訳も素晴らしい!)。例えば、サブプライム・モーゲージの詳細が判らなくても、十二分に楽しめる「ヒューマンドラマ」になっている。しかも、これが「事実」なのだ。
本書の読み方は様々だろう。少なくとも、サブプライム・モーゲージに関係なく、金融業や保険業が「何をやっているか」「どうやって儲けているか」の「闇」を垣間見えることだけは確かだ。
奴らの社会での真の役割は何なんだ?
「勝つ人」とは?
本書はずいぶん前に手に取って読まずにいたが「世紀の空売り」という邦題だけは覚えていた。その後、それでも「マネー・ボール」を楽しんで読んでも、本書が同じ Michael Lewis の著書とは気づいていなかった、本書が映画されるのを知るまでは。
そして VOA Learning English の記事 "'The Big Short' Explains the Global Financial Crisis" を読んで、俄然観るのが待ち遠しい映画となった。映画 "Moneyball" で主演を務めた Brad Pitt が "The Big Short" にも出演しているのは嬉しい。
スティーブ・アイズマン、ジェイミー・マイとチャーリー・レドリーとベン・ホケット、そしてアスペルガー症候群をかかえるバリュー投資家のマイケル・バーリ。本書で最も印象に残ったのは、彼らがその「破綻」を目の当たりにした後だ。大金を手にして、馬鹿騒ぎをしたのではない。
「世界経済が破綻」するのを予測し、実際にそちらに大金を賭ける行動をとれること自体も驚きだが、賭けている間の精神状態や周囲との軋轢は想像以上のものだろう。
真の意味で「勝つ人」とは、どういう人なのだろう?
そんな漠然とした疑問を持ちながら、本書を読み終えた。少なくとも「バンドワゴン」には乗らない人たち、だと思っている。



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