2021年12月1日水曜日

保身 積水ハウス、クーデターの深層

保身

著者:藤田雅(ただし)
発行:2021年8月30日再販版(2021年5月28日初版)

2013年に読んだ「官報複合体」以来に、日本人の「調査報道」もなかなかやるもんだ、となった本書から、日本でのジャーナリズムの発展への期待に喜んだ。しかし反面、本書で記された「事実」には愕然とするばかり...、次の本書「あとがき」が私の気持ちを簡潔に代弁している:
問題の先送りが、負の遺産を内包し、これを引き継いだ経営者を醜い行動に駆り立てる。いつも気になっていたのは、変われないままの日本の姿と、着実に変わっていく世界の姿だ。P.357

本書が取り上げる「地面師事件」のことは、ネット等で調べれば「表層」は一目瞭然。なのだが「なぜ、こんな事件が起こったのか?」という誰もが抱く疑問への回答は不明瞭極まりない。この疑問へ、丁寧に立ち向かうのが本書。

会長解職動議は、高齢の会長による絶対統治を解消する機構改革を促すものだ。こう考えれば、阿部の動議は的を射たものと言える。しかし、調査対策委員会によって明らかとされた地面師事件の責任を覆い隠してしまうことになる。しかも、クーデターを支えているのは、地面師事件の取引や決裁で大きな役割を果たしていた取締役の面々だった。ここに、クーデターの致命的な欠陥があった。P.40

このため、会長解任劇は、阿部の言う「ガバナンス改革」とは縁遠い、「保身にまみれたクーデター」として関係者たちの胸に刻まれることになる。P.41

色々と考えられる要因から、ここでは「コーポレート・ガバナンス」に視点をおきたい。

TDKで取締役を務め、各社で社外取締役を務めてきた岩崎でさえ、コーポーレート・ガバナンスについては「勘違いしていた」という。 
「日本の経営者の多くがガバナンスを取り違えている。どうやらコーポーレート・ガバナンスとは、株主を中心としたステークホルダーが、取締役や取締役会に求める規律のことですな。ところが、多くの日本の経営者は、コーポーレート・ガバナンスとは、インナーコントロール(内部統治)だと思ってる 
社員たちに規律や倫理を求めて『しっかりやれ』と言い、その規範を作ろうとするが、実はこれ、インナーコントロールであって、ガバナンスじゃないのです」P.254

「規律・倫理」を社員に求める上司や経営者はごまんといるが、上司や経営者の「規律・倫理」を「社員が求める」姿は知らない(長年、私はそうすべきだと主張してる)。その役割を担うのは本来「株主」なのだが、日本では「もの言う株主」と称されるように、なんだか状況が違う。「持株会社」も相当おかしな文化(「保身」を後押しする仕組み)なのだが、ここでは割愛する。

もっと根本的な問題としての「ウソを隠すことに抵抗がない日本」は見逃せない:
地面師事件の解明を目指した和田が解任に追い込まれ、以後、「調査報告書」は隠蔽されている。この「解任と隠蔽」の構図が、オリンパス事件を強く想起させていた。 
日本はウソを言うと怒りますけど、隠すことには抵抗がない。和を重んじる気持ちがあるからでしょうが、自分の地位に影響があるから『隠したほうがいい』という意識も見え隠れします。ガバナンスを重視する海外の投資家との意識に、大きなギャップがある。特に、リーマンショック以降に高まっているコーポーレート・ガバナンスを重視する機運を、甘く見るのは危険だと思いました」P243

もしかして「シンプルな構図」は以下の一節で表せるかもしれない:
少しずつ背伸びを繰り返して、成長を遂げ、ひたすら夢を追いかけてきた。その足元をすくわれるまで、自分追放しようとする人間がいることには気が付かなかった。高齢と権限の集中だけが、を失脚させた理由ではないだろう。実力で勝負することができない人間たちにとって、はもともと疎ましい存在だったのだ。ストレートな物言いと、狡猾さのなさは、それゆえに、狡猾な人間を悩ませた。実績を残せず、社内政治に逃げ込んだ者たちは、彼の行動と言葉にプライドを大いに傷つけられる保身にまみれた会長を生んでしまったのは、他ならぬ実力会長だったのだ。P.344

現実は「緑組と黄組」ほど単純ではないだろうが、「事件の背景」を大きく捉えることができる。そして「争いの小ささ」に呆れるばかり。

PS
和田元会長の次の言葉は、私と一緒に機械学習の営業してる人たちに伝えたい:
「積水ハウスは、もともと建材を販売することが目的の会社やから、当初、販売は代理店に任せとった。それを田鍋さんが直販方式に変えたんや。ワシが入社する一年前のことやった。これがあったからワシが入社した後、営業で活躍することができたんや。また。これが慧眼やったんは販売データはもちろん、お客様のクレームも全部、積水ハウスの営業マンが把握できるということ。これらの情報から新しいアイデアが生まれていったんです。だから、場数をこなした営業マンほど、ビジネスのキモを知っとるんです」P.142

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