| 複合汚染 著者:有吉佐和子 発行:2022年10月20日第62刷(1979年5月25日初版) |
あとがきから:
これは朝日新聞朝刊の小説欄に昭和49年10月14日から8ヶ月にわたって連載したものでした。私が目的としたのは「告発」でもなければ「警告」でもありません。P.610
昭和49年は1974年、50年以上前の出来事。本書を読みながら「げっ!今でもそうなら怖いな、食えるものがないじゃん」となった。学校の教科書でしか記憶にない「日本の公害」、本書を読んで想像以上だったことに衝撃を受けた。
試しに「日本は公害先進国だった?」と検索したら、ご丁寧に「AIさん」が応えてくれた。まさに本書のようなことが挙げられた。
次のような「企業と政治の癒着」は現代でも少なからずあるだろう:
AF2 は日本だけで使われている殺菌料である。上野製薬という会社が開発、昭和40年から厚生省が認可して、各食品メーカーが一斉に使用するようになった。では AF2 の前は何を使っていたかというと、「Zフラン」という殺菌料で、これを開発したのも同じ上野製薬であった。使用許可になったのは昭和29年、パテントが切れるのは昭和41年。そしてZフランは理由不明で昭和40年に使用禁止になっている。注目すべきは、この点だ。厚生省がZフランを使用禁止処分に付した昭和40年に、同じ製薬会社に FA2 の認可がおりている。これは偶然の一致だろうか。P.80
「殺菌料」て初めて聞く。
殺菌料(さっきんりょう)は、食品中の腐敗細菌などの微生物を死滅させることを目的に食品に添加されたり、食品製造器具に使用される食品添加物。静菌作用を持つ保存料に比べ、一般に毒性が強めなものが多い。
日本は今でも「お上に従ってばかりなのか?」の疑問はあるが、本書では「農協」など「お上関連」のずさんとも言える方針ややり方が目につく。当時、農家の人たちが決起してデモなどの反対運動はあったのだろうか?あったのかもしれないが、報道されるほどの規模ではなかったのではないか?そこにも日本の「国民性」や「社会の仕組み」を垣間見る。
次は著者ではなく「とある医者」の発言:
「(略)医学と農業は、同じ誤ちをしているように私は思います。医者は病気の症状だけ見て、薬を与えるだけ、農家は害虫だけを見て殺虫剤を使う。根本的なこと、つまり何故病気になったのか、なぜ害虫がわいたかという最も大切な原因究明を忘れて、現象面での解決を急いだばかりに、今日の医原病を招いたのです」P.309
これも、もちろん50年前の発言ではあるが、現代においても「何かを示唆する」発言。
「牛や豚の内臓が小さくなってる」という話、ホルモン好きの私には耐え難い出来事:
金田課長「(豚に)胃カイヨウがあっても効率が高いということではいけないのですか。胃カイヨウでも農家の収益が高くなればいいというものではないですか」(略)肉と関係がなければいいだろう。胃カイヨウは別に遺伝するわけじゃない。伝染するわけじゃない。胃カイヨウの豚は、うまいといいますよ」P.518
金田課長とは農林省の人で、上記のやりとりが「消費者レポート」に収録、とのことだが、ネットを探してもなかった(笑)
政治家や役人らの「不適切発言」は今でもあるのだろうが、50年前はもっと「偉そう」にしてたのは想像に難くない。今のネット社会で上記の発言は「一発アウト」間違いない。
本著者の有吉佐和子の名前は知っていたが読んだことはなかった。本書を知ったのは「名作うしろ読み」のおかげ。彼女は小説家として有名で、朝日新聞の連載も「小説欄」だった。私にとって本書は「一級のジャーナリズム本」で『官報複合体』を連想させるほどに「ジャーナリズム精神が高い本」。とはいえ「小説の定義」は人それぞれなので、「おれの考えている純文学の極致」(本書「解説」P.616)という人もいるだろう。
「日本は公害先進国だった?」のが事実として、「なぜそうなった?」に焦点を当てた本はあるのかな。あるとしてその本には、今の日本にも残る問題が浮き彫りになるだろう。そして「歴史から学ぶ」ことをやめた瞬間から「過ち」は始まる。農林水産省の人たちは読んでるよね?

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