2011年1月9日日曜日

赤ひげ

1965年日本映画 黒澤明監督
洋題 Red Beard

赤ひげ [Blu-ray]
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椿三十郎」の次々回(その間には「天国と地獄」)作品になる本作品である。本作品で三船敏郎は、サムライ三船はなく、恰幅が良くなった「赤ひげ」先生を演じている。これも「椿三十郎」に劣らず素晴らしい人間像を創りだしていると思う。惜しくもこれが、黒澤作品の「最後のミフネ」になってしまったが、見事に有終の美を飾っていると思う。

この映画を観たのは黒澤作品を観はじめた初期の頃、大学生の頃だったと思う。記憶が定かではないが、「七人の侍」の次に観たと思う。非常に感動したことだけを覚えていて、詳細をほとんどは忘れていた。

ただ、映画の後半で沢山の布団が干されている中、「おとよ」という少女と貧しい「こそ泥少年」の会話シーンのイメージだけは鮮明に覚えていた。不思議なことにこの映画は白黒映画なのに、私の記憶では赤を基調にした布団のカラーイメージで覚えていた。不思議なことだが、これも黒澤マジックなのだと思う。モノクロ映像でも観る者の映像喚起能力を引き出すマジックだと思う。

途中休憩がある185分の長編作品だが、一気に観てしまう。黒澤独特のちりばめられたユーモアで心和むシーンも多いが、本作品は決して明るい映画ではない。後半はドストエフスキーの「虐げられた人々」を取り入れて原作を変更していると知った。ドストエフスキーと黒澤明、非常に自然な組み合わせだと思う。

病で苦しむ数多くの貧しい患者たちを受け入れる「赤ひげ」が嘆く台詞が印象深い。

この状況の原因は「貧困と無教養」にある。それは「医学の問題ではなく、政治の問題」だと言うのだろうが、政治の世界で「貧困と無教養を無くす」と宣言されたことは一度もない。

本作品から45年後の現在はどうだろうか?貧困は解決している(解決し過ぎか、飽食ニッポン?)が「無教養」はどうだろうか?経済的な発展と医療制度のおかげで「贅沢」な医療を多くの人が受診できる状況だが、受診している人たちを「赤ひげ」は「教養ある人々」とするだろうか?運動不足で贅沢な食を謳歌する殿様を診断する赤ひげの指摘は、現代の飽食ニッポンへの指摘としても何の違和感もない。

全ての医療関係者が本作品を観ていることを切に願う。

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