2021年6月21日月曜日

読者は踊る(タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方・読まれ方)


読者は踊る

著者:斎藤美奈子
発行:1998年10月22日(初版)

愛ある斬り方

クラシック音楽評論をまとめ読みした。たまたま手にした何冊かがおもしろかったからだが、10冊あまり飛ばし読みしたところで、開いた口がだんだんふさがらなくなってきた。なんだこれ、つっまんねえ本ばっかだな……。

この感じは何かに似ているぞと考えて思い当たったのがアニメなんかの評論である。陳腐で空疎で稚拙な賛辞。自閉的な雰囲気。「オレだけが知っている」とでもいいたげな重箱の隅的知識のひけらかし。P.88


この「つっまんねえ本ばっか」のような「バッサリ斬り」が心地よい。誤解を承知で言うが、そこに「愛がある斬り方」なのが心地よい理由。

本書は「紅一点論」に続いの斎藤美奈子本(一応、発売順に読もうとしてる)。「紅一点論」も素晴らしかったが、本書も負けていない。


見たんか、それを!

私が、歴史上の人物や文化を、漫画やアニメ、大河ドラマなので見るたびに嫌悪する理由を代弁してくれるのが「豊かな縄文文化の象徴はヘソ出しルックの縄文ギャルか」:

縄文のイメージチェンジは自体は、10年以上も前から進行していた。しかしもちろん決定打は、1992年に青森市で発掘が始まった三内丸山遺跡であろう。遺跡そのものの迫力もさることながら、これが広く知られるようになったのはメディア、ことにNHKと朝日新聞社の力が大きい。両者は三内丸山を再三取り上げ、縄文時代はファッショナブルでグルメで芸術的で技術水準の高い明るい社会だったと、まるで当時をじかに取材してきたような勢いで喧伝した。P.126

見たんか、それを。縄文時代の少女は、本当にミニスカートにヘソ出しルックで暮らしていたんかい!P.127

展示物も本も、プロが監修したわけだから、見学者(読者)はとりあえず信じるっきゃない。私たちにはその当否を判断する材料も能力も、残念ながらない。だが、こう叫ぶ権利くらいはあるだろう。見たんか、それを!P.132


私は「マンガでわかりやすく」の多くの本に、「見たんか、それを!」との感想を抱く。デフォルメすることは批判しない、分かりやすさのためにマンガを使うことも一手法として認める。が、行き過ぎと「過剰な単純化」は、正確性を損なう要因なのは間違いないだろう。


文系読者は踊る

本書の正式?タイトルは「読者は踊らされる」じゃないかと邪推してしまう。

多くの本で「踊らされている状況」を本書は赤裸々に描いている。それが顕著なのが、いわゆる「専門書」「勉強本」:

竹内本は、その最も悪質で稚拙な例だが、理系コンプレックスの私たちはそんなものにさえ踊ってしまうわけだな。

話を『パラサイト・イヴ』に戻そう。専門知識というけれど、この図式は竹内フィーバーのときと、ある種似ていないだろうか。東大理学部博士課程修了(竹内)と同様、東北大薬学部博士課程在学中(瀬名)という学歴にビビらされていない?P.182


学歴や権威だけじゃなく、著名で高名な作家やその筋の専門家の「名前だけ」で「買ってしまう(と推測される)」現状が容易に思い描ける(売れた部数で明らかでしょ?)。売れた本が「良い本」か「使える本」かは別問題なのだ。

もしくは、「踊らされた」だけかもしれない....。


どこまでも斎藤美奈子に同感

本書に限らず、彼女の本を読んで、彼女の書評や見解に同意することが多いが、まさかウルトラマンの話題でも同意するとは...:

桜井浩子さんのことは、単なる登場人物として冷静に眺めていた僕も、『ウルトラセブン』のアンヌ隊員・菱見百合子(当時)さんのことは、仄かながら艶めいた視線で眺めていた……という印象がある。(泉麻人/『アンヌへの手紙。』所収)

この種の発言は『アンヌへの手紙』に限らず、特撮ヒロインに関する多くの資料の中で見つけることができる。女性は逆だ。女友達に聞いてみると、フジアキコは印象に残っているが、アンヌがいいとは思わなかった、という人が多い。中にはアンヌという女性隊員がいたことすら覚えていない人までいた。P.237


「ウルトラマン」「ウルトラセブン」をリアルタイムで楽しんだ世代ではないが、兄貴の影響でウルトラマンにはガキの頃にどっぷりハマった。怪獣図鑑を熟読し、ウルトラマン/ウルトラセブンの怪獣はほぼ全部把握していた言っても過言ではなかった。怪獣図鑑の他にも、ウルトラマン/ウルトラセブンに関する資料を熟読。

そんな当時でも、フジアキコの印象はあってもアンヌは違う。「アンヌ隊員」の名前だけの記憶はあっても、顔や容貌はなかった。大人になってDVDでウルトラマン/ウルトラセブンを初めて視聴した後でも、フジアキコとアンヌへの印象は変わらなかった。

つまり私は、上記に引用した、女性たちと同じ。

「俺って女性目線なのかなぁ」とも思ったが、よく分からん。ただ何となく気づいたのは、「隠れ中二病の、同僚の営業(男)」に「アンヌ隊員」のことを尋ねたら、速攻で「甘い思い出」を話し始めた、上記引用の「泉麻人」と同様に。

ファンタジー好きというか、アニメ好きというか、中二病というか...、そんな野郎に「アンヌ好き」の傾向を感じる。

私のは「女性目線」ではなく、「公平性」という目線で見てると思う。それは同様に、斎藤美奈子にも感じる。彼女は大量の資料から「良い点、悪い点」を「公平な目線/視点」で的確に評価を下している、かなり凄いです、毎回感心しきりです。


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