文章読本さん江 著者:斎藤美奈子 発行:2002年2月5日初版 |
社会人になって「あぁ、俺って文章書くの苦手だな…」と、思わない人の方が圧倒的に少ないだろう。その原因の一つ、おそらく一番の原因を、斎藤美奈子は的確に記している:
ところが、学校を卒業したその日から、過酷な現実が待ち受けている。「作文」「感想文」は、一般の文章界では差別語である。「子どもの作文じゃあるまいし」「これでは子どもの感想文だ」は、ダメな文章をけなすときの常套句である。学校のなかでは「子どもらしい」という理由で賞賛された作文が、学校の一歩外に出たとたん、こんどは「幼稚である」という理由で嘲笑の対象にされるのである。子どもらしい「表現の意欲」を重んずる学校作文と、大人っぽい「伝達の技術」が求められる非学校作文は完全に乖離している。なんという理不尽!
戦後の文章読本は、この隙間を埋めるものとして要請された側面が大きい。P.231
作文や読書感想文を「強要」された記憶はあるが、書き方のテクニック的なことを教わった記憶はほぼない。その理由は様々だろうが、「先生が教えられない」のは確実にありそうだ。
「考える読書」と称する読書感想文の例でもわかるように、機転のきく子なら、教師の求めに応じて、「自己革新したふり」の感想文など書こうと思えばいくらでも書ける。「あるがままにのふり」「思った通りのふり」のイベント作文も同様だ。学校作文のテクニックにひいでた要領のいい子どもはまんまと作文優等生になれ、「思った通り」「あるがまま」を馬鹿正直に遂行しようとした子どもは、いい点数が取れない。こんな虚偽にみちた作文教育を6年も9年も受けてきたら、学校作文不信にならないほうがおかしい。
大人用の文章読本は、この穴を埋めるものとして要請されてきた面が大きいのである。P.206
読書感想文とは、誰かに読まれることを想定して書かれるもの。なので当然「見栄を張った」「カッコつけた」「盛った文章」に自ずと向かう。逆にこれに反発した、つまり「正直」に書いた場合は「良い点数を取れない」なのは自明。
例えばこんな疑問だらけの感想文、大抵の先生からは評価されない。
「この人の書いてることの意味が分かりません。世の中、そんな良い人ばかりでしょうか?悪い人だからって、殺しちゃって良いのでしょうか?」
「偉そう」な読本
本書で取り上げられた「文章読本」で私が読んだことがあったのは本多勝一「日本語の作文技術」だけ。私のブログ投稿では「マイルドに評価」しているが、本当は「なんだこの著者は?」と若干怒りにも似た感情があった。その後に読んだ山田ズーニー「おとなの小論文教室。」に書いたように、「本多読本には愛がない」のだ。
そんな怒りの感情の訳は、斎藤美奈子の指摘によって非常に良くわかった。私的にその訳を簡潔に言えば
偉そう
「偉そう」なのは本多読本だけじゃない理由は、以下の「文章読本が製造される背景」から何となくわかる:
文章読本には、数多く読めば読むほど自前の文章読本を製造したくなる、という困った性質がある。前にもちょっといった「ええい、こっちへ貸してみな」の心境である。そのメカニズム、というか精神状態を類推すると、すなわちこういうことではないかと思う。(A) 自分と同じ意見に出会う → 自信が湧いてつい人に教授したくなる(自慢)(B) 自分と異なる意見に出会う → カチンときてつい反論したくなる(反発)(C) 自分の知らなかった意見に出会う → 感動のあまりつい人に吹聴したくなる(伝導)(D) 自分の意見がどこにもないと気づく → これは言わねばとの思いが募る(発奮)つまり何が書いてあっても「ワシにもいわせろ」気分が盛り上がってしまうのだな。相当数の文章読本とつきあった当人(私)がいうのだからまちがいない。P.58
挙げ句の果ては…
「わかりやすく書け」という、誰にも反対できないように思える理屈にも、落とし穴はある。「わかりやすく」かどうかは、たぶんに書く人と読む人との関係性によるのである。極端な話、数式や楽譜は「わかりやすく」するために発案された書法である。しかし、わからない人にはわからない。万民にわかりやすい文章など、厳密にはいえばありえないのだ。もっとも、この段階でいちいち文句をつけていたら(もうつけてるけど)先がつづかない。明文家への道は遠い。文章読本が説く心得の最後の一個はこれである。P.70
この引用の後に続くのは、なんと「品位をもて」…
「**の品位」とか「品位」をタイトルに冠した本は相変わらず多そうな気がする。「じゃ、品位っなんだよ?」との問いへの答えは難しいものになるだろう。文章作成で言えば、rhetoric「レトリック」、つまり「修辞学」との答えは、正しいようで正しくない気がする。
私の文章作成への考えはシンプルで
たくさん読んで、たくさん書こう
少なくとも、本書を読んで楽しめる人は、良い文章を書いてると思うけどな(笑)
PS
本書の裏表紙、斬捨御免あそはせ! は、本書に限らず「斎藤美奈子的」で非常に良い!
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