2022年3月17日木曜日

わが友 本田宗一郎

わが友 本田宗一郎

著者:井深大(いぶかまさる)
発行:2002年7月5日第4刷(初版1995年3月10日)
   1991年単行本

中学生の頃に漠然とあった「やりたい仕事」は「オートバイを作る人」だった、オートバイのプラモデル製作に夢中の頃。高校生になってプラモデル作りは止まったが、学校近くの本屋で多くのオートバイ雑誌を立ち読みした(買う金がなかったから...)。その頃から「本田宗一郎」は知っていた。サッカー部の後輩「ソウイチロウ」が入部した際には「おぉ、本田宗一郎と同じやん!」と一人密かに叫んだものだ。

井深大のことは勿論知っていたが、名前だけで、急に彼とソニーのことを知りたくなったのには二つの理由がある。一つは Steve Jobs の伝記 Becoming Steve Jobs で、結構な頻度で "Sony" が言及されていたから。もう一つが、先月気づいたこと。とある大手企業向けに実証実験をしているが、我々の競合他社の土台がソニーのようで(構成員の経歴から明らか)、「あ、この人、ソニーをダメにした人じゃん」と昔抱いた想いが突然蘇った。

ソニーが凄かった頃より「ダメになった」頃の印象が強いのは良くない、そこで「井深大」について調べてる中で、本書に出会った。本田宗一郎と親交があったことは知らなかった。お互いエンジニア同士、あの個性強い本田宗一郎と、どんな価値観を共有していたのか興味を持った。

読みながら頭から離れないことがあった。

Steve Jobs が賞賛したソニー製品だったが、デジタル製品やサービス競争におけるソニーの現状を、井深大はどう語るだろうか。オートバイの(日本での)販売の実情を、本田宗一郎はどう見るのだろうか。知る由もないが、時代の変化、技術やサービスの変化、その変化への日本企業の対応など、考えさせられることは多い。


変わらない「核」

本書は一気に読める。私が普段読んでる海外のビジネス書(例えば Good Strategy Bad Strategy)と比較して、内容的に薄い。とはいえ、そんなビジネス書と「目的が違う」ので、本書は本書で読む価値は十分にあった。

では、今の現代に本田宗一郎や井深大のような人が、存在するだろうか? 私は ”Yes” と応えるが、「存在したとしても、当時の彼らのように自由に開発できて、評価され、成功するか?」との問いには大いに疑問だ。もっと事態は複雑になっているのが現代なのだ。

とはいえ、エンジニアリングやビジネスの「核」として大切にすべき要素は、今も昔も変わらないことは多い。以下では、そんな点を取り上げる。

本田 しかし市場は開拓したね。ソニーでもうちでも失敗したことは大切にしているが、みなさん、この失敗を知ろうしない。表面に出た成功をさかんにいうわけだが、この成功の陰にはものすごい失敗もある。失敗を恐れちゃいけないね。その失敗の内容が、どうであったか、ということが一番のエッセンスなんだ。おいしいことにそれを調べる人は一人も外部にいないね。これが企業の一番大事な条件だと思うがね。
井深 だから、中止する撤退の方法は難しい。私が一番感心しているのは、本田さんはちょっと不況になりかけるとスパッと休む。P.162

現在読んでいる Creativity, Inc にも同様のことは何度も書かれている。以下は Chapter 6: Fear and Failure から(翻訳 by りんだ):
Left to their own devices, most people don’t want to fail. But Andrew Stanton isn’t most people. As I’ve mentioned, he’s known around Pixar for repeating the phrases “fail early and fail fast” and “be wrong as fast as you can.” He thinks of failure like learning to ride a bike; it isn’t conceivable that you would learn to do this without making mistakes—without toppling over a few times.  
自分の裁量に任されると、たいていの人は失敗を望まない。しかし Andrew Stanton は違う。先に述べたように、彼は「より早くに失敗、素早く失敗」や「できるだけ早くに失敗」を繰り返し発することで Pixar 内で知られている。彼曰く、失敗は自転車の乗り方を学ぶのに似ている:何度か倒れる失敗なしにできるとは想像できない。
Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

そして「組織」について。

私は大企業や中小企業を経験して、毎度の組織改変の度に「偉い人が仕事やってるフリしてるだけ」と思ったものだ。もっといえば「戦略に沿った組織」ではなかった(そもそも戦略と呼べるものがない)。

次の「組織があってやるのは役所仕事」とは言い得て妙!(笑)
井深 私は組織というのは反対で、組織は仕事の邪魔をするものである、というのが私の考え方です。まず仕事が最初にきて、その仕事を誰にさせたらいいのか、ということで決まるんです。組織があってやるのは役所仕事ですよ。仕事の内容はどんどん変わってくるんですからね。
本田 われわれも仕事自体によって、組織がだんだん決まる。お前は、これが得意だからこれをやりなさい、ということになる。はじめから戒名をつけてポンとやるとおかしくなるもんですよ。海外戦略でも、売れるから出す。 P.164

最後に、井深大の言うように「競争が技術レベルを高める」のは間違いない:
この技術力の競争については、国や軍の保護を受けずに、民間企業同士でたたかうときが、もっとも競争が厳しくなり、技術レベルもより高まるというのが、戦争中から私が考えていたことです。よく、「戦争が新しい技術を発展させてきた」と言われますが、軍事産業がその国の技術レベルを善導するとはかぎらないのです。
(略)
というのも、いくらいい技術を開発する力を持っていても、その技術を軍事用とか宇宙用とかの国家目的にばかり使っていると、産業界はそれだけで利潤が得られるので、競争力を発揮しなくなり、やがては技術開発力も衰えてしまうというわけです。要するに、国をスポンサーにして、国の保護を受けているだけではだめなのです。P.173
軍事産業がその国の技術レベルを善導するとはかぎらない」は、戦中に軍事産業に携って、戦後にソニーの前身の会社を立ち上げた井深、彼だからこそ非常に説得力がある。

私も「軍事産業が技術を善導する」と誤解していた(善導した例もあるが、多くはない)。「ITゼネコン」の言葉が今でもあるか不明だが、そんな「ゼネコン」に在籍しいた頃、国家向けの仕事を何度かした。井深が言うように、そんな開発で「競争は無いに等し」かった。

本書はこうやって、変わらない「核」を再認識する良い機会となった。

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