2023年1月1日日曜日

伝説のプラモ屋:田宮模型をつくった人々

伝説のプラモ屋 田宮模型をつくった人々

著者:田宮俊作
発行:2007年5月10日文庫初版(2004年9月単行本)
2010年に読んだ「田宮模型の仕事」を再読しようとしていて本書を見つけた。前著と比較して、本書には戦車や戦闘機などのミリタリー、その他のメカの歴史などの詳細が豊富なように思えた。その辺が好きな「真の?タミヤファン」なら楽しめるのだろうが、私の場合はちょっと違った。本書のサブタイトルにある「人々」に興味があって、もっとビジネス的なものを期待していた。

とはいえ、印象的な逸話というか、タミヤ並みに長く事業を続けているからこその話は多い。例えば:
F1 の模型化については、いまと違って契約関係がおおらかな時代だ。取材も協力的で、キットが出来上がった時、フェラーリチーム用に数十台を贈呈すれば、エンツォ・フェラーリのサインの入ったサンクスレターが届く。その礼状が許可書だった。 
現在のように、「相応のロイヤリティマネーを支払ってほしい」などとは口にしない。人間同士の信頼関係や友情、仲間意識がビジネスの基盤にある良き時代である。 
エンツォという御大がこの世を去られた途端、模型メーカーにとって非常に厳しく世知辛い時代が到来したのである。P. 153

新作キット(新型の市販オートバイやGPマシン)が昔より出ない印象があるのは、ロイヤリティマネーも少なからず関係しているだろう。実機への「取材協力」も「情報保護」の名の下に「おおらか」であるはずはない、「世知辛い時代」です。

とはいえ、別の見方もできる。今より「契約関係がおおらかな時代」だったかもしれないが、タミヤ側の取材努力や、その製品のクオリティなど、タミヤだからこそ協力の手を差し伸べる企業や人は、今でも少なからずいるのは間違いない。そう信じたいのかもしれないが...。

何を美しいと思うか

そんなタミヤの「秘密?」を本書で垣間見ることができる。

2008年6月に本著者の俊作から、タミヤ代表取締役社長に就任したのは、当時専務の田宮昌行で、次は著者とその父・田宮義雄との思い出を綴ったもの:
相続税を払う手続きを終えた頃、事業継承についてそれまでの考えを修正しなければならないと思うようになりました。相続は金と技術に関わることがすべてだ、と私もそれらを優先して物事を考えるように訓練されてしまっていたのです。しかし、当事者として相続を経験すると、一番大切なものは企業文化だと気づきました。真の事業継承とは文化を承継することにあるのです。 
タミヤの企業文化は何か。これを一言で言うのは難しいでしょう。「日本の文化は何か」を海外で一言で説明することが難しいのと同じです。では、模型の面白さは何処にあるのか。私は「何を美しいと思うか」ではないかと思っています。利益の出ない商品開発をしてはなりません。でも、「何を美しいと思うか」を目先の利益よりも優先しなければならないのです。 P.35-36

Creativity, Inc.No Rules Rules を読んで、タミヤのような模型企業に限らず、企業が継続して成長するには「企業文化」が不可欠と確信。しかしそれまでは、企業文化という言葉は「薄っぺらい」と思っていた。社会人になって最初に働いた二社はどれも大企業で、本社の幹部やお偉いさんに会う機会はあった。しかし彼らの口から出る「企業文化」は意味不明だった。薄っぺらすぎて記憶にもない。「サラリーマン社長」の限界なのかもしれない。

結局のところ、企業文化は「ある企業」と「ない企業」があると思うようになった。その多くに企業文化はなさそうに思える。

企業文化はさておいたとしても、「何を美しいと思うか」は私がずっと大切していることでもある。ここでの「美しさ」は見た目だけじゃない。アイデアの面白さや、実現の仕方など、「美しさ」は常に意識してきた。上部だけの適当に考えたものには「美しさ」はないのだ。加えて難しいのは、その「美しさ」を顧客や他人に伝えること。

先に引用した「人間同士の信頼関係や友情」の根底にあるのは、「美しさ」を共有・共感できているかに依存するような気がする。

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