2023年3月30日木曜日

映画術 その演出はなぜ心をつかむのか

映画術 その演出はなぜ心をつかむのか

著者: 塩田明彦
発行:2014年1月16日初版

本書は、2012年に映画美学校アクターズ・コースの在校生に向けた講義の採録。本著者のことも知らないし、取り上げられた作品は「秋刀魚の味」しか観たことがない。それでも本書は非常に興味深く読んだ。解説された作品を観ていないので、本講義を完全に納得することはできないが、「なるほど」と「心をつかむ」講義ではある。

そもそも、完全に納得することや、抱いていた疑問が、このたった7回の講義で分かるはずはないのだ。ましてや芸術を「解説」するなんて。著者はそのことも十分承知している:
講義は全部で7回を予定していまして、僕としては毎回、異なる角度から映画について問いを投げかけまして、そこから見えてくるもの、聞こえてくるものを言葉にして、ここで響かせていくつもりなのですが、ひとつ断っておきたいのは、そこに響く言葉というものが、たったひとつの答え、唯一絶対の正解、というものにたどり着くことはほぼないだろう、ということです。僕が響かせる声は、どこまでいっても複数の声のままであって、この場にいる多くの皆さんが、むしろ今まで以上に多くの疑問にとり憑かれ、右往左往することになるのではないかと推察します。

でも、それでいいのだと思います。そのとき皆さん抱えているであろう問いこそ、本当の意味で、皆さんを創作や表現へと誘う問いだと思うからです。「いい映画とは何か?」「いい演技とは何か?」みたいな、抽象的すぎてあまり役に立たない問いから解放されて、より実践的で意味のある問いかけを皆さんは見出すのではないか。そう信じて、講義をしていきたいと思います。P.8

昔の私なら本書は手に取らないだろう。というのも、映画や音楽などの芸術を言葉にするのは「野暮」と思っていた。極端には

好きな作品か、嫌いな作品か

ぐらいにしか考えていなかった。

しかし、多くの芸術に接していくと、次第に自分の好きな作品の傾向が分かってくる。と同時に、その作品の特徴なりや「巧さ」や「味」を堪能していることに気づく。

私は、小学校低学年の頃からテレビで洋画を観ていた。特に、実家の店が定休日の月曜日、暗い店内で一人で観ていた(そのことはヒッチコックの The Birds の投稿に記した)。

「芸術性を言葉にしてみたい」。そう思い始めたのは「絵とは何か」を読んだ頃からかもしれない。そして一年ほど前から、自分が演奏する曲を細かく分析するようになったことも影響してるかもしれない。先日観た Tár の高い芸術性に魅了されたのもある。

映画の解釈とは異なるかもしれないが、斎藤美奈子の「誤読日記」を思い出した。芸術の受け止め方に、正解も間違いもないのだろう。「誤読」が、著者の想いと違う解釈だったとしても、それは読み手側の解釈であって「間違い」ではないのだ。

映画は「誤読」の可能性が多分にある。俳優の台詞や表情や動き、カメラのアングルや背景、などなど。「読み取れない」要素は読書以上にある。そんな作品を言葉で表現するのは困難なのだが、本書から、その楽しみの片鱗を垣間見た気がした。

そして、映画や読書など芸術作品の堪能の仕方は自由であって「ワガママ」で良いのだと、当たり前のことを再確認したのであった。

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