2023年3月4日土曜日

Tár

Tár

監督:Todd Field
脚本:Todd Field
公開:2022年10月7日USA(2023年5月12日JPN予定)
邦題:TAR/ター

やっぱ映画は観なきゃ!

と強く反省させられた、とても面白い作品。

本作は「Cate Blanchett がオーケストラ指揮者」と知った時点から気になっていた。彼女の作品ですぐに思い出すのは、一人二役を「同時」に演じた Coffee And Cigarettes"Bob Dylan" になった I'm Not There は衝撃だった。とはいえ、本作は観るのを躊躇していた。彼女は大好きな女優の一人(参照:Cate Blanchett 先生が教える inspiration と imagination)だが、面白くなかった出演作品が何度かあって、「Cate Blanchett は良いだが、作品がなぁ...」の嫌な予感があったから。

先日 BAFTA (British Academy Film Awards) の授賞式を観た。主演女優賞を本作の Cate Blanchett が受賞したが、それが本作を「直ぐに観よう」になった理由ではない。BAFTA のノミネート作品の紹介を観ながら

 あぁ最近、映画観てないなぁ、それって良くないぁ...

と反省したのだ。2022 年はノミネート作品を一本も観てなくて「このまま観なくて良いかぁ、今年は」となっていたことも反省した。

去年は、海外ドラマを優先して観ていたのと、古い映画、特にフランスやイタリアのヨーロッパの作品を観ようとしていた。新作は気になるが、派手で豪華な作品ばかりが目について、少し「食傷気味」だったかもしれない。

本作を「観なきゃな」となったのは、NPR Fresh Air の Cate Blanchett 出演回を聴いたのも理由。普段の彼女の声は、たまらなく魅力的。

そして本作を避けてたもう一つの理由は、「実在の人物を元にした作品」と思っていたから。近年、そんな作品が多くて、それこそ「食傷気味」だった。しかし、これが誤解と知るのは作品を観た後。厳密には、観てる途中で「これ、完全にフィクションだよな?」の疑問を抱いた。

そんな疑問を抱く前は「事実を元にした作品で、主人公は実在する」と思わせるほどの出来栄え。観終わった後で Wikipedia で確認:


わはは(笑)、私は「少なからずの観客」の一人だった。

本作は観ながら「Cate Blanchett のために作られた作品だ」と終始感じていたが:


本当にそうだった(笑)

テレビドラマに勝る、映画ならではの魅力を、本作から改めて教えられた気がする。その魅力を「高い芸術性」と言い切ると語弊があるが、それが真実の一面もあると思う。


芸術家の苦悩

私にとって「なれるのなら就きたかった職業」は、ギタリストなどのミュージシャン。そうでなかったら、映画監督かオーケストラ指揮者。様々に有能な人たちを導き、唯一無二の作品やパフォーマンスを作り出すこと。言うなれば「芸術分野の独裁者」に憧れているのかもしれない。

ただし、現代の「独裁者」はどんな分野であれ「叩かれる」可能性が多分にある。「独裁者」は誤解を生みそうなので、「高いスキルと社会的評価を兼ね備えた人物」としよう。本作の主人公はまさにそんな人物。

このシーンは好きなのだが、私も似たようなことを去年やってしまった:
つまり、適切なアドバイスをするつもりが、結果的に相手を怒らせることになった。

芸術の素晴らしさを語るの難しい。芸術に限らず、自分の好きなことを、他人に正しく伝えるのは簡単なことではない。

本作の場合、「高い芸術性への理解」よりも、「色々な人の価値観を受け入れよう」みたいな正義が優ってしまった例とも考えられる。つまり「大衆の意見が正義」で、大衆にとって「著名で口うるさい芸術家が叩かれる方が楽しい」のだ。

実際のオーケストラの指揮者との違いなんて考えるのは無駄だろうし、本作の指揮者が「典型的な指揮者」とするのも間違いだろう。
しかしながら「指揮者とは?」を、彼女の演技は十二分に表現していると思う。

「芸術家の苦悩」と言葉にするのは簡単だが、本当に体験してる人はごく僅か。知った風な口は叩きたくないが、その苦悩の先にある「素晴らしいもの」を想像すれば、それは「苦悩ではない」のかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿