2023年7月7日金曜日

殺しのパレード

殺しのパレード

原題:Hit Parade
著者:Lawrence Block
訳 :田口俊樹
発行:2007年12月15日初版(原書:2006年7月3日)

本書は、これまでになく「のんびり」読んだ。どのくらい「のんびり」かと言えば、本書を読了する前に、Keith Peterson (Adrew Klavan) 著「幻の終わり」を読み始め、その本もかなり「のんびり」読んでから、ようやく本書を読み終えた。ケラーシリーズは短編の集まりだが、過去の物語が繋がっているので、こんな風に時間をかけて読んでも、物語の筋を読み誤ることはない。

今のところ(一冊しか読んでないが)「幻の終わり」の「ジョン・ウェルズ記者シリーズ」よりは、「殺し屋ケラー」の物語の方が好みだ。ジャーナリズムの「ジョン・ウェルズ」も良いが、「殺し屋らしからぬ殺し屋」ケラーの物語が「読んでいて心地よい」のだ。

本書は、これまで以上に「殺し屋らしからぬ物語」の印象がある。描かれているのは「ケラーの日常」であり「人生の葛藤(心の動き)」。

次の文章は「ぐっ」ときた:
人に喜びをもたらすものは達成しようと努力することにある。喜びとは達成そのものではない。

言い換えると

努力こそが喜びをもたらすもので
達成そのものが喜びではない

仕事もそうだが、この言葉で真っ先に浮かぶのが「楽器演奏」。日々指に痛みを感じるほどギターを弾いてるが、「練習できていること」に感謝している。上手くなったという達成感の瞬間は、滅多にない。それでも練習しているのは「練習できている喜び」でしかない。

さて、本書のケラーの「喜び」とは、先ほどの引用を含む一節から:
世界じゅうの切手を集めていると、手に入れることができる切手よりずっと多くの空白がいつまでもコレクションブックに残ることになる。自分が持っているどのコレクションブックも絶対に完成することのないことは、ケラーにもわかっていた。が、そのことを苛立たしく思ったことはない。むしろそのことが励みになっていた。それはつまり、どんなに長生きしようと、どれほど金を稼ごうと、探す切手がなくなることはないからだ。もちろん空白は埋めたい、それはひとつ大きなポイントだ、しかし、人に喜びをもたらすものは達成しようと努力することにある。喜びとは達成そのものではない。P.60

たかだか「切手集め」と言われそうだが、本書を読めば「その深さ」は「切手蒐集に無知」な私にも(何となく)伝わる。

残念だったのが「訳者あとがき」を読んだこと。今後のケラーシリーズの「ネタ」が書かれている。訳者がケラーシリーズのファンであることは理解するが、だからといって「ネタ」をバラして良いとはならない。

とはいえ、その本を読む頃には、その「ネタ」のことは忘れてることだろう(笑)

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