2023年8月27日日曜日

原節子の真実

原節子の真実

著者:石井妙子
発行:2019年2月1日文庫版(初版2016年3月)

10年以上前から、好きな映画監督、男優、女優の問いには

黒澤明、三船敏郎、原節子

と応え続けてきた(実際に尋ねられたことはないが...)。

観る映画やドラマは9割以上が海外ものなのに、不思議と「各一人選べ」となれば、なぜか全員が日本人となってしまう。

この三人の中で、過去のインタビュー映像を見たことがないのは原節子だけ、実際の発言も見聞きした覚えがない。本人からの情報がこれほど極端に少ないのは、本人の意図を感じる。私はそのことを尊重して、彼女に関する本を読む気はなかった(2011年に「彼女が演じた役」を読んだが、小津安二郎映画への興味から、実際にも原節子の情報は少なかった記憶がある)。

彼女の訃報を知って投稿したものを今読み返しても、書いてる時の感情が蘇る。本書は、その訃報の後に出版。原節子本人は読んでいないし、生前に出版されていても、彼女が読むことはなかっただろう。

本書は自叙伝ではなく、評伝なのである、「本人の許可なく勝手に書いてる」とも言える。だかといって「事実に反する」とは限らない。とはいえ「すべて事実」とは限らない(「真実」という言葉の定義が必要だが...)のだが、本書では一貫した「原節子像」を描いていると思う。

彼女は勁(つよ)い女優であり、勁い女性だった。
完全な男社会だった日本で、流されるのではなく抗(あらが)い続けた。引退や隠棲(いんせい)、独身を貫き通したことも、やはり彼女の「抗い」だったと私には思えてならない。
多くの巨匠たちに愛され、数々の名作に出演し、幸福な女優だと語る人がいるが、はたしてどうであろうか。彼女は最後まで代表作を求め続けた。しかし、その夢は果たされなかった。女優人生のなかで恋を犠牲にし、実兄を失い、自身の健康を損ない、得られたことはどれほどのものだったろう。P.382

本書の「原節子」は、私の思い描いてた「原節子」とはかなり違った。途中で読むのを止めようとしたほどに「違った」。それでも読了したのは、「事実に目を逸らしたくなかった」のもあるが、彼女の出演映画だけで「その人となり」を判断したことを反省したかったから。

これは少しわかりにくい「私の考え方」かもしれないので、ミュージシャンを例に説明。

私は Bob Dylan のファンで、彼の言動や行動も好きだ。しかし、基本的には「Bob Dylan の作品やパフォーマンス」が好きであって、本人がどんな人かには関心がない。 「生み出された作品を楽しむ」の姿勢なのだ。とはいえ、「なんだこいつは」と感じる人が生み出す作品を支持することはないだろう。なぜなら「作品にすべてが投影」なのは間違いないからだ。

戦前、戦後、復興の過程で、映画界に君臨していた女優が「原節子」なのは「事実」。世界(特に欧州)で最も知られている日本人女優は「原節子」かもしれない。彼女の訃報時の海外メディアの取り上げ方からも、そう思う。

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