2023年12月14日木曜日

ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門

ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門

著者:Lawrence Block, 訳:田口俊樹、加賀山卓郎
発行:2003年1月29日初版(1983年出版原書:Telling Lies for Fun & Profit: A Manual for Fiction Writers

本書は雑誌 Writer's Digest「ライターズ・ダイジェスト」 から著者ののコラムをまとめたもの:
Considerable autobiographical information on the earlier phase of his life and career may be found scattered through Telling Lies for Fun and Profit (1981), a collection of his fiction columns from Writer's Digest.
殺し屋 最後の仕事」の伊坂幸太郎の解説から本書を知った。

私は作家になる気も、小説を書く予定もない。作家がどういう風に作品を生み出しているのかも想像できないが、容易にスラスラと日々書いている姿は想像できない。少なくとも私が好きな作家たちは「苦労して書いているんだろうな」と想像する。

映画術 その演出はなぜ心をつかむのか で書いたように、本来言葉で表現しにくい「芸術」を、「なぜ好きなのか?」を積極的に考えるようになっている。例えば、日々楽器を練習する際も「音楽的な分析」が欠かせなくなった(おかげで「音楽理論」なるものが、多少なりとも見えてきた)。

本書は「面白い小説とは?」を解説したものではないが、「面白い小説が生まれる背景」は示唆している。書き方の「テクニック的」なものもあるが、むしろ「書くにあたっての心構え」が多いように思える。実際、小説を書くことが「テクニックで何とかなるもの」ではあり得ないのだ。

最終章の冒頭:
神よ、あなたに数分の時間がありますように。私には山のようにお願いしたいことがあります。
基本的に、神よ、私がなり得るかぎり最高の作家になることに、そしてどんな才能であれ、授かったものを最大限活用することに力を貸してください。ここでやめてもいいのですが、もう少し具体的にお話したほうがいいかもしれません。P.300

この「第5章 これが真実では?:精神的演習としての創作」「作家の祈り」は、この章だけでも読む価値が十分あるが、ここまでを読んだので一層心に沁みる章となった。独特の語り口(翻訳も苦労したと思う)で、楽しみながらも、若干読みにくさも感じながら、読了に長期間を要した。結果、作家の「創作過程」を垣間見た気がする。

自分自身と重ねる

私の仕事は、「ほぼ全て」と言って良いよほど「周囲で誰もやったことない」システムの開発。「誰かがやったことや、同じことをやりたくない」という意識があるのは認める。楽しいのだが、時に苦しい時もある。

以下は、そんな私が、多いに共感した箇所、一節ごとに見ていく:
これほど創作を取り巻く環境がドラマティックでなくても、途中で執筆が滞らない本はむしろまれである。ときに何をを書いて、それが井戸から湧き出る水のようにすらすらと最後まで流れることもあるが、歯を抜くときのようにやっとのことでことばが出てくる日々、ぽつぽつとできあがっていく章、のほうが多い。P.132

お客との要件定義や技術調査の段階では「意外と簡単かも」と考えがちだが、開発の中盤あたりから雲行きが怪しくなる。なんとか要件を満たして納期内に納めるのだが、当初の「順調だろう」の予想は、結局のところ当たったことはない。

長距離走者は、どんなレースにも苛酷なときがあると言う。体じゅうが痛み、走ることすべてが耐えがたいものに感じられ、何よりもレースを投げ出したいと思う。そのときにしなければならないことは、過去の経験を思い出し、今は苛酷なときを過ごしているのだと理解し、すぐに事態は好転するという予見でそれを乗り切ることだ。P.132

楽器演奏ボクシングを通じて確信しているのは、「あぁ、キツイなぁ」という段階を何度も乗り越えない限り、事態は好転、すなわち「上手くなる」ことはない。仕事の場合でも、多くの「良い失敗」を経てじゃないと、本当に良いものを作ることはできない。

本にもまさに同じように苛酷なときがある。重要なのはそれを乗り切ること、どんなに不適切に思えることばでも、とにかく文字にしてしまうことだ。私について言えば、調子の悪い日に書いたものが、調子のいい日に書いたものより眼に見えてひどくはなかったことが何度もある。書いているときにはひどい気がしてもだ。しかし、苛酷なときには、ハムレットの独白をタイプしても大袈裟でぎこちなく思える。つまりやっていることをどう思うかは別にして、やり続けなければならないのだ。P.132

「続けること」の意義は「続けた人」にしか分からないのだ。

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