2025年1月9日木曜日

終点のあの子

終点のあの子

著者:柚木麻子
発行:2012年4月10日初版(単行本:2010年5月)

私にふさわしいホテル』が良かったので著者のデビュー作を手に取った。「高校生の話」だと気づき、同様にデビュー作である辻村深月の『冷たい校舎の時は止まる』を連想して、読むのを若干ためらった。しかし読み始めて直ぐに、それは杞憂に終わった。

全四篇の物語で、第一遍の「フォーゲットミー、ノットブルー」だけでも面白い。さらに嬉しいのは、これら四篇が舞台や設定を共有していること。最後の「オイスターベイビー」の設定は若干違うが、それはそれで意外性が高く、四遍を上手くまとめる役割を担っている。

本書で気付くのは、著者のキャラクター設定の上手さ。逆にキャラクター設定が上手くない作者の物語は、大抵は面白くない。

これら四遍の中で、最も好きな話しを挙げるとすれば第二編「ふたりでいるのに無言で読書」を選ぶ。リーダー格で美人の「恭子」と、地味グループ所属の冴えない外見の「保田(やすだ)」、この二人の夏休みの交流を描いたもの。現実にこのようなことは起こりにくい気がするが、「現実にあって欲しい」と願いたい物語。

その「保田」を同級生の「希世子」が描写:
目と目が離れた猫背で太めな女の子で、靴下をたるませ、のしのしと蟹股で歩く。地味な子たちとつるみ、ボーイズラブ漫画を読み、イラストを描いている。花や美少年の華やかなイラストと本人たちとのギャップに怖いものを感じ、近寄ったことがあまりない。P.16
他人をここまで描写するのは、私には不可能だ(笑)

自分の学生時代と比べて、本書の「生徒グループ」は、高校生よりは中学生の頃のものに近い。「近い」とは言っても、男の私たちに「そんなグループ」が明確にあったようには思えない(私が、その辺は無頓着だったこともあるかも...)。但し「女子グループ」には何らかの「棲み分け」的なものがあったようだ。この一年、中学の頃の同級生の女性と何度か会った際、色々と聞けたのだ。「今だから言えること」な話で、当時よりも客観的に考えられるようだ。

「森ちゃん」が好きなバンドはチャットモンチー、携帯着メロは「シャングリラ」:
「あたしらはGS世代なんだよ。あっ、GSってグループサウンズのことね。今で言う『嵐』みたいなもん。ただし、楽器ができるんだけどね
いつになく彼女は饒舌だった。
「日劇ウエストカーニバルで失神したことあんのよ、あたし」
なんのことかさっぱりわからないが、得意気に胸を張る吉沢さんは若々しく見えた。
「あんた、音楽は好き?好きなバンドはなに」P.98

著者の特徴か不明だが、本書には地名や駅、ミュージシャンなど固有名詞が登場する。iPod で「相対性理論」を聴く場面など、今では一昔前となってしまうが、物語の時代背景や空気感も同時に楽しめる。

女子高生を中心にした物語は、嫉妬や妬みにまみれた「ドロドロした話」を想像してしまうが、本書はそうではない。「ドロドロな面」を取り上げながらも、爽快感をもって読めるのは著者の力によるものだろう。

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