| The Big Sleep 著者:Raymond Chandler 発行:1939年 |
かなりじっくり読んだ。苦労したのは主に三点:
・1930年代の Los Angeles の事情
・その時代独特の言い回し
・いわゆる「Chandler 節」と呼ばれる文体
もっとも、これらは慣れてしまえば障害ではなくなる。むしろ逆で、読めるようになるほど魅力として立ち上がってくる。
特に「Chandler 節」は顕著だ。文章は極めて映像的であり、同時に明らかに「リズム」を持っている。このリズムは、日本語訳では再現が難しい。意味は伝わっても、「音」としての心地よさはどうしても削がれてしまう。
「Jazz を聴いているようだ」という比喩は決して大袈裟ではない。そのリズムそのものを味わいたくて、現在はオーディオブックを使って再読している。
好きなシーンを一つ挙げる。
第30章で General との会話での Marlowe の台詞:
When you hire a boy in my line of work it isn’t like hiring a window-washer and showing him eight windows and saying: ‘Wash those and you’re through.’ You don’t know what I have to go through or over or under to do your job for you. I do it my way. I do my best to protect you and I may break a few rules, but I break them in your favor. The client comes first, unless he’s crooked.俺みたいな仕事の人間を雇うってのはな、窓拭きを雇って「そこに窓が八つある、それ拭いたら終わりだ」ってのとは違うんだ。依頼を片づけるために、俺がどこを通り、何をくぐり、何を乗り越えることになるのか、あんたには分からない。やり方は俺の流儀だ。あんたを守るために最善は尽くす。ルールをいくつか破ることもあるだろう。だが、それはあんたのために破る。依頼人が第一だ。――そいつがロクでもない奴じゃない限りはな。
「ルールを破る」を「既定路線の縛られない」とすると、私の職業観と完全に一致。そして「責任を引き受ける」姿勢も一致。
「AI と呼ばれる」ような分野の開発をしてると、顧客は私のやっていることを完全に理解することはできない(だから依頼されると解釈している)。だから余計に顧客の要望を深く理解して、最善の手法を見つけて全力を尽くす。そして可能な限り情報提供は怠らない。そして「やり遂げる」も怠らないし、判断と結果の責任は自分で引き受ける。
「発注額以上の成果を納める」も私がずっと持ち続けている信条。Marlowe もそんな人のようで、共感するところは多い。ただ、Marlowe のセリフの多くは「ハードボイルド過ぎて」現実社会では「お前、何言ってんの?」と見られるだけだけどな(笑)
2026年にハードボイルドへ共感するのは、少し滑稽にも思える。ただ、その中身だけを取り出すと、自分がやっていることと大きくは変わらない。時代は大きく変わったはずなのに、やっていることの本質はあまり変わっていないのかもしれない。

0 件のコメント:
コメントを投稿